一時期、「領域を越えて動ける人材」と言われることに、少し違和感がありました。
その言い方が悪いわけではありません。
ただ、少し軽く聞こえることがあったからです。
いくつかの仕事を経験して、いくつかの業界に触れて、いくつかの言語が使える。
それだけで自然に「強み」としてまとめられてしまうような感じがありました。
でも自分にとって、領域を越えられることは、最初から持っていた強みではありません。
いくつもの経験が少しずつ積み重なって、あとから振り返ったときに、ばらばらに見えていたものがどこかでつながっていた。
それに近い感覚です。
写真、イベント、モデルマネジメント、海外営業、旅行・ビジネス接遇、IT サポート、AI ツールの導入。
表面だけを見ると、必ずしも同じ線の上にあるようには見えません。
でも実際にやってみると、その奥にあるものは意外と近いと感じます。
人、流れ、現場で起きること。
そして、一つの物事を最後まで進めるにはどうすればいいか。
最初から領域を越えようとしていたわけではない
最初から、領域を越えるキャリアを作ろうとしていたわけではありません。
自分が最初に深く関わったのは、写真とイベントの現場でした。
写真は一見、創作に見えます。
でもイベントの現場に入ると、ただ撮るだけでは終わりません。
光を見る。人の状態を見る。時間を見る。現場の空気を見る。
特にポートレート撮影会や団体撮影のような場では、カメラマン、モデル、参加者、主催者、それぞれに期待があります。
いい写真を撮ることは大切です。
でも、それだけでは足りません。
イベントが無事に終わること、参加者がきちんと対応されていること、モデルが無理のない状態で仕事を終えられること。
それらも同じくらい大切です。
Chingarno Studio で仕事をするようになってから、その感覚はさらに強くなりました。
撮影や現場対応だけではなく、モデルの管理、イベント企画、集客や宣伝、日本人モデルの撮影イベントの調整にも関わるようになりました。
その頃から、自分がやっていることはもう「写真」だけではないと感じるようになりました。
限られた時間、限られた人手、限られた予算の中で、人とリソースをどう配置すれば動くのか。
そういうことを考える仕事になっていました。
当時はそれをプロジェクトマネジメントとは呼んでいませんでした。
ただ、現場を崩してはいけない。
約束したことは最後までやらないといけない。
そう思っていただけです。
語学力は飾りではなく、物事を前に進めるための道具
中国語、英語、日本語が使えると聞くと、多くの人はまず語学力そのものを見ます。
でも自分にとって、語学は試験の点数や履歴書の項目だけではありません。
本当に意味を持つのは、現場で使うときです。
イベント現場では逐次通訳が必要になることがあります。
日本側のパートナーと話すときには、言葉にされていない不安も読み取る必要があります。
海外のお客様を接遇するときには、文化、期待、仕事の進め方の違いの間で、ちょうどいい落とし所を探さなければなりません。
自分にとって大事なのは、「何語が話せるか」ではありません。
言語を使って、違う立場の人たちの間に立ち、話を整理し、必要なことをそろえることです。
これは、国をまたぐ仕事では特に強く感じます。
協業の機会がないわけではありません。
ただ、最初の段階でお互いの前提が見えていないことが多い。
台湾側にとっては普通のことが、日本側から見るとリスクに見えることがあります。
日本側にとっては当然の手順が、台湾側から見ると少し硬く感じられることもあります。
ただ言葉を訳すだけでは、問題は解決しません。
相手が何を心配しているのか。
こちら側が本当にどこまで約束できるのか。
そこまで見ないと、話は前に進みません。
だから自分にとって語学力は、国際的に見せるための飾りではありません。
物事を止めないための道具に近いです。
接遇の仕事で学んだのは、サービスだけではなく現場を整えること
その後、日本で仕事をする中で、富裕層向けの旅行やビジネス接遇に関わるようになりました。
この仕事は、写真業界とはかなり違って見えます。
一方は撮影スタジオ、モデル、イベント現場。
もう一方は高級旅行、ホテル、車両、サプライヤー、海外のお客様。
でも続けているうちに、中心にあるものはかなり近いと感じました。
表に見えるきれいな成果の裏側で、見えない細かい調整を積み重ねる。
その点は同じです。
行程に無理がないか。
サプライヤーの確認はできているか。
お客様の希望を実行できる形に落とし込めているか。
急な変更が起きたとき、誰が判断するのか。
現場で問題が起きたとき、「自分の担当ではありません」だけでは済みません。
特に高端なサービスでは、その差がはっきり出ます。
一台の車、一つのホテル、一つの時間を確定するために、裏でどれだけ確認を重ねたかを、お客様が知ることはほとんどありません。
でも当日に一つでも崩れれば、必ず伝わります。
これはイベント現場にも近い感覚です。
参加者やお客様にとって、すべてが自然に進んでいるように見える状態。
それが一番いい。
でもその自然さは、たいてい自然ではない準備の上にあります。
IT サポートと AI 導入で、「問題を解く」ことの見方が変わった
その後、IT サポートや AI ツール導入の方向にも進むようになりました。
最初は、大きな方向転換に見えるかもしれません。
写真、イベント、接遇から、IT、システム、AI ツールへ。
表面的には、同じ一本の線には見えにくいです。
でも自分の感覚では、断絶ではありませんでした。
むしろ延長に近いです。
IT サポートで扱うことも、本質的には問題の分解だからです。
ユーザーが困っているとき、必ずしも問題を正確に説明できるわけではありません。
「パソコンが壊れた」と言っていても、実際にはネットワークの問題かもしれません。
「システムが使えない」と言っていても、権限、業務フロー、操作習慣の問題かもしれません。
表面の一言だけを聞いて、すぐに結論を出すことはできません。
AI ツールの導入も同じです。
多くの会社は、AI が注目されていること自体は知っています。
本当の問題は、どこに使うのか、誰が使うのか、どう教えるのか、どう日常業務の流れに入れるのかです。
この仕事をしていると、以前にイベント、接遇、写真の現場で積み重ねた力を使っていると感じることがよくあります。
現場を見る。
人がどう問題を説明しているかを聞く。
本当に詰まっている場所を探す。
複雑なことを、相手が理解できる手順に分ける。
ただツールを渡すだけではなく、実際に使えるところまで持っていく。
IT と AI の領域に入ってから、むしろはっきりしたことがあります。
自分が積み重ねてきたのは、ある業界だけで使う固定されたスキルではありません。
問題を扱うための考え方でした。
領域を越えることは、経歴を並べることではない
以前は、自分の経歴が散らばって見えるのではないかと不安に思うこともありました。
撮影会社の COO、イベントマーケティング、モデルマネジメント、学校の調達プロジェクトアシスタント、旅行接遇、IT サポート、AI Consultant。
肩書きだけを見ると、確かにまっすぐな道ではありません。
でも今は、あまりそうは考えていません。
まっすぐな道だから価値があるとは限りません。
散らばっているから方向がないとも限りません。
大事なのは、その経験の中から共通する力が育っているかどうかです。
自分にとって、その力はたぶんこういうものです。
慣れていない環境に入ったとき、まず現場を見て理解し、それから物事を前に進める力。
撮影イベントもそうでした。
国をまたぐ協業もそうでした。
高端な接遇もそうでした。
IT サポートもそうでした。
AI 導入も同じです。
どの領域にも、その領域の言葉、ルール、習慣があります。
でも実際に現場に入ると、多くの問題は専門用語だけでは解けないとわかります。
聞くこと。
見ること。
最初から全部わかっているふりをしないこと。
そして、情報がまだ不完全な状態でも、次に何をするかを探すこと。
こういう力は、急に身につくものではありません。
「領域横断的な統合力」と書けば成立するものでもありません。
一つひとつの経験の中で、少しずつ作られていくものです。
今、自分の領域横断をどう見ているか
今の自分を説明するとしたら、最初に「領域を越えられる人材です」とは言わないと思います。
それよりも、いくつかの違う現場の中で、問題を解く力を少しずつ積み上げてきた人間だと言いたいです。
美感と現場判断が必要な写真の仕事をしてきました。
コミュニケーション、信頼、調整が必要な国際的なイベントにも関わってきました。
高端なお客様の接遇、サプライヤーとの調整、行程管理、急な変更への対応も経験しました。
その後、その経験を IT サポートや AI ツール導入にも持ち込みました。
すべてがきれいにつながっていたわけではありません。
すべての転換が順調だったわけでもありません。
でもその経験があったからこそ、違う立場の人たちの言葉を少しずつ理解できるようになりました。
クリエイターは作品を大切にします。
お客様は体験を大切にします。
会社はコストと成果を見ます。
現場の人は、その流れが本当に回るかを気にします。
ユーザーは、そのツールが本当に自分の仕事を楽にしてくれるかを見ています。
どの視点が上という話ではありません。
ただ、それぞれ理解される必要があります。
自分はその間を、かなり長い時間行き来してきました。
だから自分にとって、領域を越えることは強みそのものではありません。
それは結果です。
本当の強みは、その経験の裏側で少しずつ積み上がってきたものです。
現場を読む力。
違う立場の人と話す力。
あいまいな要望を具体的な行動に変える力。
そして、まだ正解がない状態でも、物事を前に進める力。
こういうものは、きれいに包装しにくいです。
でも今は、むしろそのほうが自分らしいと思っています。